ニット君について、初めての方は、まずはこちらから
2011年にまで、さかのぼります(^^;
ポチっと ⇒稀代の企業戦士・ニット君
この物語は、真実を元に、大げさに作成したノンフィクションである。
私は、その日、身も毛もよだつような、とても恐ろしい場面に出会った。
私の会社には変な男がいる。
その男の名を、私はニット君と名付けた。
何故なら、冬の寒い時期なら分かるが、
この男は猛暑の真夏であっても、なにがあっても、
年中、ニット帽をかぶっているからなのだ!
春のシーズン、桜の季節の到来である。
毎年、この時期になると、私の会社にも、たくさんの新入社員が入ってくる。
新入社員は、ある一定の研修期間を経て、正社員として各部署へ配属される。
主な配属先というと、高卒は製造現場などの直接部門へ、
大卒は、技術や研究開発などの間接部門に配属されることが多い。
この日は大卒の新入社員、
男女数十名が、私の勤務している工場に研修にきていた。
参考までに説明しよう。
私の会社は、某〇〇グループの企業である。
本社は東京にある。
各工場、営業所、支所等は、国内、海外含めてあらゆるところに存在している。
あちこちで社員は勤務しているわけなのだが、
私の勤務している〇〇工場では、常時300名程度の社員が働いている。
今回の新入社員は、会社として採用した人材であるため、
全国から、この工場に研修に来ているということである。
事件は昼休みに起こった!
食堂での出来事である。
お昼になると、社員はほぼ全員、食堂で昼食を済ますのであるが、
その時の、食べる席というのは、だいたい決まっている。
私もそうだが、今日は窓際の席でとか奥の席とか・・・
日によって変えることは、ほとんどない。
ほぼ、毎日、同じ席で食べており、
私の周りで食べている社員も、いつも同じメンバーである。
かと言って、別に席が決まっているわけでもない。
どこの席で食べても良いわけだし、空いているところで食べればいい。
食堂の中では、ある一角の良い席がある。
良い席かどうかというのは、個人の感覚によって異なるのだが、
その席が何故?良いかというと、TVに近いということ、ただそれだけである。
食堂には壁際に2か所、対角線上にTVを設置している。
当然のことながら、食堂は広いため、近い方がTVも見やすい。
その近い席で、毎日、昼食をとっている人物、それがニット君であった。
その席は、TVのリモコンにも手が届く。
ある意味、その席に座ると、自分の好きな番組に、変え放題なのである。
それをいいことに、ニット君はいつも自分の見たい番組を見ていた。
お昼の、ちょっとした時間のことなので、別にかまわないのであるが、
周りが、気分を害する時も、しばしばある。
以前に、こんなことがあった。
その日、私は昼食をとりながらTVを見ていた。
ちょうど、ヒルナンデスがしていた。
私は、その時の内容がとても面白かったので、ついつい見入ってしまった。
それは、周りの社員も同じような心境であった。
そこに、ニット君が現れたのだ!
ニット君は、いつものように席に座り、
そして有無を言わさず、突然チャンネルを変えたのだ!
なんということだ!
この雰囲気!この空気が読めないのか!
周りの社員も、なんやねん!といった顔をしている。
そこで、私はテレパシーを使ってニット君と交信してみることにした!
『ニット君、あなたは何故?周りを無視した行動をとるのですか?』
すると、ニット君は私のテレパシーに気づいたらしく、こっちを向いた。
そして、思わせぶりに微笑んだのである。
( ̄ー ̄) ニヤリ。。。。
私は、驚いた!
なんて!気持ち悪い男なんだ!
こんな男とは、かかわらない方が無難だ!
ほっとけ!ほっとけ!
ある日のこと、いつもと同じように食堂に向かうと、
大卒の新入社員の面々が昼食をとろうとしていた、
そして、新入社員、男女数十名は、
こともあろうに、そのTVに近い席で昼食をとろうとしたのである!
いや、別に問題はない。
なんの問題もないのだ。
誰がどの席に座って食事しても良いのだから・・・。
その時である!
「こらぁ!」
突然、食堂内が騒然とした!
「そこは!ワシの席やないかぃ!」
なんと、ニット君がやってきて、吠えたのである!
間の悪いことに、ニット君のいつも座っている席で
大卒の新入社員が食事をしていたからだ!
「ここは!ワシの席やないかい!」
「!?」
「ここはワシの席や!TVを見るんや!」
新入社員は、訳がわからず、恐怖に怯えた!
女子社員は、うっすら目に涙を浮かべているように見えた!
なんてことだ!
そんな言い方をしなくてもいいではないか!
そこは、ニット君の席と決まっているわけではない!
誰が座っても良いのだ!
食堂は社員の憩いの場、自由の場であるのだ!
大卒の面々、在学中に何社ほど企業説明を受けたのだろう・・・
このご時世・・・中々仕事なんてない・・・。
文系か理系か分からないが一生懸命勉強して、
そんな中、やっとの思いで掴み取った内定。
希望に胸を膨らませて、入社してきたに違いない。
それをなんだ!
ワシの席やないかい!で一喝されたら身もふたもないではないか!
ましてや入社したての新入社員、言い返すことも出来ないだろう!
私はニット君を軽蔑した。
ニット君には、人材を育成するという気持ち、考えはもっていないに違いない。
大卒の新入社員は、全員、席を移動した。
私は、その一部始終を目撃し、
このようなフレッシュな人材が、不憫で仕方がないような気分になった。
社会人としての洗礼・・・
これは、まさにそういうことなのだろうか!?
いや、そういうことではない!
やはり・・・私は・・・私は新入社員が不憫でならない!
「チャンネルは!チャンネル!」
ニット君は、新入社員を追い払った後、
何食わぬ顔で席に座り、再び叫び続けた。
実は、TVがついていなかったのである。
それもそうだ、新入社員が席に座り、TVをつけるとかどうとか、
そんなこと、知っているわけがないのだから。
「チャンネル!チャンネルはどこや!」
追い出された新入社員の面々は、私の隣に来た。
「あのぅ・・」
「はい?」
「ここ、空いてますか?」
「あ、空いてるよ、どうぞ」
新入社員は私に確認をしてから、全員座って昼食をとり始めたのだ。
別に、どこで昼食をとってもいいのである。
席なんて決まってないのだから・・・。
なんだか・・・かわいそうだ・・・。
「チャンネルわぃ!チャンネル!」
新入社員の男女は普通に昼食を、とっていたかのように見えたが、
よく見ると、それぞれの顔は、落胆・・・無念・・・そんな雰囲気が滲みでていた。
それは、何か罪を犯したかのような顔だった。
私は、益々、不憫に思った。
私は言ってあげたい・・・
『君たちは何も悪くない、堂々と社会人としての一歩を踏み出してほしい』
「チャンネル!チャンネル!」
ニット君は、あいかわらず叫び続けている。
もう、こうなると、食堂内の社員は全員、ドン引きだ!
そんな中、新入社員のひとりが、私に話かけてきた。
「あそこの席は・・・何かあるんですか?」
「!?」
私は驚いた!
そりゃ、そうだろう。
彼らは、訳が分からないまま、ニット君に怒鳴られたのだから・・・。
不思議がるのも無理はない。
意味が分かれば、反論することも出来るが・・・
いや、新入社員なんで、意味が分かっても反論は難しいだろう。
私なら、絶対にそんなこと言われたら言い返してやるが!
「別に気にしなくてもいいよ」
「!?」
「特に意味はないから・・・」
「でも・・・」
「あの席でいつもTVを見ている人がおるから・・・」
「・・・」
「それだけだよ」
「そうなんですか・・・」
「社会人になって、大変だろうけど、頑張ってな」
「ありがとうございます」
私は、やさしく応えてあげたつもりだ。
新入社員は、とても大人しい感じであった。
大人しくても良いのだが、ある程度は、元気だったり、
自分の意見も言えた方が社会人としては良いと思うのだが・・・。
まぁ、新入社員だから仕方あるまい。
でも、今時の世代ってどうなんだろう。
こんなもんなのだろうか?
自己主張とかも、あんまりしない若者も多いと聞いたこともある。
「チャンネルわぃ!チャンネル!チャンネルどこや!」
ニット君は、あいかわらず叫んでいる!
「チャンネル!チャンネル!」
もう、キリがない・・・。
食堂内では、ニット君の雄叫びがこだまする。
その時、私は、ふと新入社員の面々に目をやった。
すると、なんだか・・・ボソボソと言っているような気がした。
何を言っているのだろう・・・。
まったく分からなかったが、
気になったので、少し耳を傾けて聞いてみることにした。
その時!私は、驚愕の言葉を耳にしたのであった!
「チャンネルではない! リモコンや!」
((((((ノ゚⊿゚)ノ
瞬殺であった!
その言葉の矛先は、間違いなく、ニット君に向けられていた!
果たして、ニット君に、その思いは届いたのだろうか!
この時、私は確信した。
将来、この会社は間違いなく、この若者たちの腕で更なる成長を遂げるだろう。
そして、彼らは日本を代表する社会人になるに違いない。
私は思った。
その時、きっと今日という日のことを思いだすだろう。
私との出会い、そしてニット君との出会いのことを。